「今週も提案書づくりで一日つぶれた」——営業の現場でよく聞く声です。顧客と向き合う時間よりも、資料を整える時間のほうが長くなっていないでしょうか。私は外部のAI担当として複数の中小企業を支援していますが、提案書・営業資料の作成はAIの効果が比較的わかりやすく出やすい領域だと感じています。ここでは、いきなり全自動を目指すのではなく、無理なく始められる進め方を整理します。
なぜ提案書作成にこそAIを使う余地があるのか
中小企業庁「中小企業白書」では、人手不足を経営課題として挙げる中小企業が高い水準で存在することが示されています。営業部門も例外ではなく、限られた人数で商談も資料作成も回している企業は少なくありません。
この状況で提案書作成に多くの時間を取られると、何が起きるか。単純に「顧客と話す時間」「次の商談を仕込む時間」が削られます。資料は営業活動の手段であって目的ではないのに、手段の準備に本来の時間を奪われてしまうわけです。
提案書や営業資料には、実は毎回ゼロから作っているわけではない部分が多く含まれています。会社紹介、サービスの説明、導入の流れ、よくある質問への回答——こうした共通部分と、顧客ごとに変える部分を切り分ければ、AIが下書きを担える範囲が見えてきます。
AIに任せやすい工程と、人が担うべき工程
提案書作成をひとかたまりで考えると、AIをどこに使えばいいのか迷います。工程を分けて考えるのが実践的です。
AIに任せやすい工程
- 商談メモや議事録から、顧客の課題を箇条書きに整理する
- 過去の類似提案書をもとに、たたき台の構成案を作る
- サービス説明文を、相手の業種に合わせて言い換える
- 想定される質問と回答案をリストアップする
これらは「materialが既にある」「型が決まっている」作業で、AIが下書きを出しやすい部分です。
人が担うべき工程
- 提案の核となる価格・条件・約束できる範囲の判断
- 顧客との関係性を踏まえた表現の最終調整
- 数字や固有名詞など、事実の裏取り
AIが出した文章には、実際には確認していない前提や、あいまいな表現が混じることがあります。特に金額や納期、実績にかかわる記述は、必ず人が事実確認をしてから提出する。この線引きを社内で決めておくことが、トラブルを防ぐ前提になります。
具体的な進め方:まずは一つの型から
最初から全社の資料をAI化しようとすると、たいてい途中で止まります。私が勧めているのは、よく使う提案書を一種類だけ選び、そこから始める方法です。
- よく使う提案書を1つ選ぶ:受注件数が多い、または作成頻度が高いものが向いています。
- 共通部分と可変部分を分ける:会社紹介など毎回同じ箇所を固定し、顧客ごとに変わる箇所を明確にします。
- 可変部分の作り方をAIに指示する:「この商談メモから顧客の課題を3点にまとめて」といった具体的な依頼文(プロンプト)を用意します。
- 出力を人が確認して仕上げる:事実確認と表現調整を経て提出します。
- うまくいった指示文を保存する:次回から同じ依頼文を再利用でき、担当者が変わっても品質が安定します。
このサイクルを一つの型で回せるようになってから、対象を広げていくと定着しやすくなります。
効果の測り方と、注意しておきたいこと
導入したものの「なんとなく速くなった気がする」で終わると、続けるべきか判断できません。簡単でよいので、作成にかかった時間を数件だけ記録しておくことをお勧めします。ビフォー・アフターを並べれば、社内で共有するときの説得材料になります。
注意点として、AIが作った下書きをそのまま提出しない運用を徹底してください。文章としては自然でも、内容が実態と異なる場合があります。また、顧客の機密情報や個人情報を外部のAIサービスに入力する際は、利用するサービスの規約や自社のルールを確認しておく必要があります。
AIは提案書づくりを肩代わりしてくれる万能の存在ではなく、下書きと整理を担う助手のようなものです。判断と最終責任は人が持つ。この役割分担を守れば、営業担当が本来やるべき「顧客と向き合う時間」を取り戻す手段として、十分に活かせると考えています。まずは一つの提案書から、試してみてはいかがでしょうか。