「このExcelの数字を、あの管理システムに打ち直す」——毎日そんな転記作業を続けている事務担当の方は少なくないと思います。地味で終わりが見えず、しかもミスが許されない。そういう作業ほど、実は自動化の効果が出やすい領域です。
この記事では、システム間の転記がまだ残っている現場に向けて、データ入力・転記をAIやツールで減らすための考え方と、無理のない進め方を私なりに整理します。
転記作業は「見えないコスト」になりやすい
中小企業庁の中小企業白書でも、人手不足を課題に挙げる中小企業が多い状況が示されています。人が足りない現場ほど、一人ひとりが抱える定型作業の重さが経営に響いてきます。
だからこそ、現場では次のようなことが起きます。
- 転記に時間を取られ、本来の確認・判断業務が後回しになる
- 担当者が休むと作業が止まる(属人化)
- 打ち間違いに気づくのが遅れ、後工程で手戻りが発生する
転記そのものは「1件数分」でも、件数と頻度を掛け合わせると相当な時間になります。しかも、その時間はどこにも記録されないため、負担が見えにくいのが厄介なところです。まずは「どの作業に、月どのくらい時間がかかっているか」をざっくり把握することが出発点になります。
転記が発生する原因を分けて考える
自動化の前に、なぜ転記が必要なのかを整理すると打ち手が見えてきます。私は大きく3つに分けて考えています。
1. システム同士がつながっていない
受注管理と会計、在庫と販売など、別々のシステムを使っていて連携していないケースです。同じ数字を二度、三度と入力していることが多く、削減余地が大きい部分です。
2. 紙・PDF・メールから拾っている
注文書のPDFやメール本文から、必要な項目を目で読んで打ち込むパターンです。ここはAIによる読み取りや抽出が効いてくる領域です。
3. フォーマットが揃っていない
取引先ごとに書式がバラバラで、そのつど整え直しているケース。この場合、いきなり自動化するより先に、社内で受け取り方や様式を少し統一するだけで負担が減ることもあります。
原因を分けることで、「これはツール連携」「これはAI読み取り」「これはまず様式の見直し」と、適した手段を割り当てやすくなります。
小さく始める自動化の進め方
いきなり全部を自動化しようとすると、設定も検証も大変で頓挫しがちです。私は次の順番をおすすめしています。
- 対象を1つに絞る:件数が多く、書式が安定している作業から選ぶ
- 手順を書き出す:どの項目を、どこから、どこへ移すかを言語化する
- 一部だけ試す:全件ではなく、まず数十件で精度と手間を確認する
- 人のチェックを残す:自動化した結果を人が確認する工程を必ず入れる
AIで文書から項目を抽出する場合も、抽出結果をそのまま流し込むのではなく、担当者が目視で確認する運用にしておくと安心です。特に金額・日付・取引先名など、間違えると影響が大きい項目は確認を厚くします。
表計算ソフトの関数や既存システムの取り込み機能で解決できることも多いので、最初から高価な仕組みを入れる必要はありません。「今ある道具で減らせる部分」から手をつけるのが、失敗の少ない進め方だと考えています。
自動化した後も運用が続くように
自動化は「作って終わり」ではありません。取引先の書式変更やシステム更新で、うまく動かなくなることがあります。そのため、次の準備をしておくと安定します。
- 手順書を残し、担当者以外も内容を把握できるようにする
- うまくいかなかったときに手作業へ戻せる代替手段を用意する
- 月に一度、想定どおり動いているかを軽く点検する
こうした運用の設計まで含めて考えると、社内だけで抱えるのが難しい場面も出てきます。私たちのような外部のAI担当を必要な範囲で活用し、どこを自動化し、どこは人が担うかを一緒に線引きしていくのも一つの選択肢です。
転記作業は、なくそうと思えば少しずつ減らせる作業です。まずは負担の大きい1つを選び、手順を書き出すところから始めてみてください。小さな一歩でも、積み重なれば現場の余裕は確実に変わってきます。